脳と心にどんな関係があるのか?
脳がわかれば心もわかる?
近年、脳の研究によって、心理学の領域で扱われてきた情動(喜怒哀楽など)は、大脳辺縁系の働きと関係していることがわかってきました。
ただ、脳の研究が進めば心理学が必要なくなると考えるのは早計でしょう。脳に生理的な変化をもたらすきっかけは「心理的なもの」であるからです。
また、人が嬉しい、悲しいなどの感情を覚えるときには、本人の意識とは関係なく必ず神経系に変化があらわれます。この点から生理心理学が誕生しました。生理心理学の研究は、ポリグラフ(嘘発見器)にも活用されています。
人間の認識
同じものでも人によって見え方が違う
私たちは現実の周囲の環境を、そのまま受け止めているわけではありません。
- 今までの経験
- その時の心理状態
以上の点から知覚が働き、その情報が「重要か?そうでないか?」を選択して認識します。この点から、人により経験した内容も違い、心理状態も違うので同じものでも、人によって見え方が異なるわけです。
認知心理学
認知心理学は、比較的新しい分野の心理学ですが、ここでいう認知は、知覚、記憶、思考など、人間の頭の中で行われる心的機能の総称と定義されています。(人が行う知的活動)
人の情報処理
無意識に行われる情報処理
私たちは一種のフィルターを無意識に働かせて、関心のある情報以外はシャットアウトしています。こうした無意識のうちに行われる情報処理を、カクテルパーティ効果と呼びます。
例えば、駅のホームで誰かと話してるとき、構内アナウンスに気にならない。しかし私たちは、意識していない情報でも、その内容が重要かどうかを、無意識のうちに処理しているのです。
人間の記憶とネットワーク
あるひとつの概念に関連があるものは、その近辺に、関連の薄い概念は遠くにというように、人間の記憶は様々な概念や知識がネットワーク状に配置されていると認知心理学では考えています。そして、それぞれの概念は、リンクによって結ばれているとしています。
プライミング効果
先に入ってきた情報処理のしかたによって、後から入ってきた情報の処理速度に影響を与えること
例えば、単語完成テスト「しん〇〇く」を行う場合、
答えになる語「しんりがく」を事前に見せた場合は、見せてない場合と比べて正解率が高くなります。
また、自由連想テスト「しんりがく」を呈示した後に
自由連想テスト「カウンセラー」から始まる連想などを行うと、呈示された語は出現率が高くなります。
人の記憶の種類と解説
過去に経験したことを、必要に応じて思い出せるように保持することを記憶といいます。しかし、人の経験したすべての記憶を自由に思い出せるわけではありません。
記憶は3つに分けて考えられます
- 感覚貯蔵の記憶
- 短期記憶
- 長期記憶
感覚貯蔵の記憶
感覚貯蔵の記憶とは、見たまま、聞いたままを保持する記憶で、次々と忘れていく短命な記憶です。この段階で、注意を向けられた情報だけが、次の記憶過程の短期記憶に貯蔵されます。
短期記憶
認知的な作業をするために、一時的に保持する記憶を短期記憶といいます。あらゆる認知的な課題を遂行するために、記憶を一時的に保持する作業台のようなもので、作業記憶とも呼ばれます。
例 計算する、本を読む、推理するなど作業としての記憶段階
長期記憶
いつまでたっても必ず思い出すことのできる永続的な記憶を長期記憶といいます。一度長期記憶に落ちた記憶を忘れることはありません。私たちが日常いう「記憶する」とは長期記憶を指します。
長期記憶は2つに分かれる
宣言的記憶…言葉によって記憶される。さらに、一般的な知識としての記憶である意味記憶と、ある特定の出来事に対してのエピソード記憶に分類されます。
手続記憶…自転車の乗り方のように言葉では記憶されないもの
記憶の様々な種類について
フラッシュバブル記憶
劇的で感情的な出来事が、そっくりそのまま写真のように焼き付けられる記憶のことです。有名な例として、ケネディ大統領の暗殺事件があげられます。ニュースで事件の映像を見た人々の多くは、衝撃的な出来事が脳裏に焼き付けられたことでしょう。後にトラウマになる危険も含まれています。
自伝的記憶
人が自分の生涯を振り返って再現する個人的な記憶を自伝的記憶といいます。無意識のうちに辛い記憶は抑圧され、必ずしも事実として正しい記憶とは限りません。
記憶錯誤
経験したことが誤って追想されたり、空想が混同されたりして記憶が歪曲されることを記憶錯誤といいます。その人の経験やある種の偏見に基づき対象をゆがめてしまうこと。
思い出せない記憶について
せっかく覚えた記憶も、保存方法や引き出し方によってなかなか思い出せないことがあります。
メモリーブロック
喉まで出ているのに、どうしても人の名前が思い出せない…これを、メモリーブロックといいます。
メモリーブロックが起こりやすい時
- 緊張している時
- 疲れている時
- 体調が悪い時
若い人より高齢者に多く、高齢者は「その人に関する記憶がそのまますっぽり」と消えてしまいます。メモリーブロックが起こっても、無理やり思い出そうとはせずに、気楽に待ったほうがいいようです。
アルコールブラックアウト
飲み過ぎた次の日に、飲んだときの記憶がすっかりなくなっていた経験がある人は多いのではないでしょうか。深酒によって記憶を失うことを、アルコールブラックアウトといいます。
記憶力をよくする5つの方法
心理学の研究結果では、記憶力の良し悪しに生まれながらの能力の差は認められません。ただ、記憶力のよい人は、皆さんそれぞれ独自の記憶術をお持ちのようです。記憶術は、意外と簡単に習得できるので、代表的な5つをご紹介します。
物語構成法
記憶しなければいけない事柄をつなげ、ストーリーにまとめて記憶する方法です。
場所法
自分の部屋など馴染み深い場合と、記憶しなければならない事柄を、頭の中で結びつけて記憶する方法です。思い出すときに部屋の風景を思い描くだけで記憶が再生されやすくなります(対連合学習の学習法の一種)
数の止め釘法
1がイチゴ、2がニンジンなど、1〜10までの数字とある事物を結びつけて覚えておきます。あとは記憶しなければならない事柄をその事物と結びつけて順番に記憶します(対連合学習)
チャンキング
数字の羅列などを記憶する場合、記憶に残りやすいように3つから7つに区切りを入れて覚える方法です。
アメリカの心理学者ミラーは、数字の最大量を3〜7程度であるとし、マジカルナンバーと呼びました。
電話番号や車のナンバーに利用されています
ごろ合わせ
歴史の年号を覚えるときによくお目にかかる方法です。
他人の顔の記憶
人は個々の顔をどう識別している?
各人の顔の構成要素やその配置は、非常によく似ています。私たちは、どうやってそれだけ多くの人の顔を記憶し、思い出しているのでしょうか?顔の記憶には次の3つの特徴があげられます。
孤立効果
他の人とは違った形状を持つ顔は記憶されやすい
- 馬面
- おちょぼ口
- 魅力的な顔など
意味処理優位性効果
顔から受ける印象を性格特性と結びつけると記憶されやすくなります。この事から、自分の好きな顔という感情が作られます。
既知性効果
初めて会う人より、見たことのある人の顔のほうが思い出しやすくなります。子供と大人で顔の認識能力は異なる
大人は顔全体を統一されたイメージとして記憶し、その人を認識することができますが、そのような能力は10歳程度になるまで完成されません。それまでは、目や鼻や口などの顔の部分ごとに着目して人の顔を判断しています(モンタージュ)
なので普段はメガネをかけていない人が、メガネをかけていると子供には判別できないことがあります。
視覚による知覚
目に映るものは意外とあいまいである
私たちは、目に映るものは「現実である」と考えています。しかし、目でキャッチする情報(主観的世界)と、実際の事物(客観的世界)は、必ずしも一致しません。その典型例に錯覚があります。
心理学でいう「錯覚」とは、主観的世界と客観的世界のズレがわかっていながら、知覚がそのズレを修正できない状態をいいます。
視覚による錯覚のことを心理学では「錯視」と呼んでいます。(化粧のアイシャドーは錯視を利用しています)
幾何学的な図形によって錯覚が起きるものを「幾何学的錯覚」といいます。
錯覚について詳しい図形などはこちらを参考にして下さい
残像現象
前に見た刺激がなくなってからも、その感覚が残っていることを残像といいます。
脳の視覚野が前の像を認識し続けている状態で、目から別の情報が送られると、動いていないものが動いているように見える錯覚が起こります。
サブリミナル効果
残像現象を利用して、相手に気づかれないうちに潜在意識に働きかけ、行動に影響を与えるものです。
人間の潜在能力を発揮させる「サブリミナルテープ」というものもあります。ふつうの音楽に、人間には聞こえない音声メッセージを重ねて収録し、そのテープを継続的に聞くと、メッセージが潜在意識に働きかけ、人のコンプレックスを解消したりするようです。
ただし、サブリミナル効果は話題のおもしろさが優先しており、人間の深層心理を解明するための研究課題のひとつとなっているだけで、明確に実証されていません。
色彩心理学
色と感情の関係に、はじめて注目したのはドイツの詩人・作家であるゲーテです。彼は、すべての色は白と黒との対立であらわされるという「色彩論」を著しています。
色による心理効果は
- ファッション産業
- 医療現場
- 飲食産業
- エンタメ業界
などで積極的に取り入れられています。
人の第一印象は、視覚から入ってきた情報が影響します。とくに洋服の色は、その人のイメージを構成する大きな要素となります。
日本人が好む色とは?
日本人は基本的に中庸を好む傾向があります。とくに、服装などの色には自己主張の意味があるので、自分だけが目立たないように他のひとと同じ色を身につけるようになります(同調行動)サラリーマンのスーツにグレーや紺が多いのも納得できるでしょう。
色彩心理学について詳しくはこちらもご覧ください
心理学と音楽
音楽は心を健康にする
音楽は心を健康にするといわれています。
音楽心理学は、ベルリン大学のシュトゥンプの音の研究にはじまり、第1次大戦後、アイオワ大学のシーショアが音楽才能の心理学的研究によってシーショア・テスト(音楽才能検査)を考案し、古典的名著「音楽心理学」を著しました。
第2次大戦後には、生活しやすい能率的な状況をつくるために環境音楽が生まれました。
音楽療法の方法と効果
音楽療法とは、治療者が音楽を手段として患者の自由な自己表現をうながし、行動の変化を引き起こそうとするもので、芸術療法のひとつです。
- 受動的に聴くだけの音楽鑑賞
- 歌唱・コーラス・器楽演奏・作曲などに能動的に関わる方法に分かれます
音楽鑑賞の2つの療法
- 患者の精神状態に近い音楽を用いる
- 反対の音楽を用いる
わかりやすくいうと、落ち込んでいるときにテンポのよい曲を聴いて元気になることがありますが、気分にマッチした曲を聴いたほうがいい場合もあります。悲しみを共感すること、つまり同調により気持ちが浄化されるからです。悲しい映画を見ながら思いっきり泣くと気持ちがさっぱりするのと同じ心理です。
音楽療法の対象
子供では
- 精神発育遅滞
- 自閉症
- 学習障害など
大人では
- 気分障害
- 神経症
- 心身症
- アルコール依存症など
ただし、病状の重い場合や自我の弱い患者に対しては、あまり効果がみられない場合もあるようです。