心理学とは、ひとことでいえば「目に見える行動」と、そこから推論される「心の動き」を科学的に研究する学問です。
例えば
- 恥ずかしい時に顔が赤くなる
- 怖いと体が震える
人間の心は目に見えなくても、行動に現れます。つまり、目に見える行動から心の動きを推論することができます。
心理学を科学として成立させるには、研究結果が一定条件で再現できたり、誰が実験しても同じ結果を得る必要があります。そこで心理学は、心が目に見えるかたち「行動」を研究対象としました。
心理学は「人間とはいったいなにか?」を科学的に研究していくことを目的としています。なので、人間に関するあらゆる分野で心理学は研究されています。
心理学の種類について
心理学は大きく「基礎心理学」と「応用心理学」とに分けられています。
- 基礎心理学とは、心理学における一般法則を研究するもの
- 応用心理学とは、心理学が得た法則や知識を実際の問題に役立てるのが目的
あらゆる分野の心理学について詳しくは、こちらの記事を参考にしてください
心理学の歴史
心理学のはじまり
人間の心を理論的に考えようとしたのは、古代ギリシャの哲学者アリストテレス(BC384~322)が最初です。
アリストテレスは「霊魂論」という本の中で
- 感覚
- 記憶と想起
- 睡眠と覚醒など
現代の心理学にも通じる主題を論じました。
しかし、アリストテレスの哲学的心理学は継承する人がなく、再び心理学について考察が行われるようになるのは、16世紀半ばのルネッサンス期になってからです。
17世紀になると
イギリスでは「経験主義心理学」が生まれ、ロックやヒュームらによって提唱された「連想心理学」へと発展
連想心理学とは、人間は生まれたときは白紙の状態であると仮定し、連想によって感覚と観念、観念と観念が結びついていき、まとまった観念体系が形成されるというもの。
ドイツでは「理性主義心理学」が生まれ、デカルトやヴォルフらによって提唱された「能力心理学」へと発展
能力心理学とは、人間は生まれながらに特定の能力や才能があるとして、精神構造を「知・情・意」の3つに分けて分析するというもの。
以上のように2つの心理学は「人間は生まれながらに才能を備えているかどうか」という点において、出発点から異なるものでした。
心理学と自然科学の発展の関係
18世紀になると、天文学・数学・物理学・生理学・生物学・医学などの自然科学が進歩し、これらの諸科学の影響を受け、心理学は哲学的思考から脱して、ひとつの科学として独立しました。
例えば、生物学のダーウィンの進化論により人間と動物の進化の過程が同一視されたことで、動物心理学や比較心理学が発達していきました。
諸科学と心理学は互いに影響を与え合い、今日でも多くの研究が行われています。
「心理学の父」ヴント
19世紀末頃にヴントが登場
彼ははじめ生理学を学んでいたが、その後ライプチヒ大学で哲学の教授となる。同大学に世界ではじめて心理学実験室をつくった。彼は哲学の主観的な手法を排し、当時の自然科学の研究方法を取り入れ、心を科学的に探究することを目指しました。このことから現代の「心理学の父」と考えられています。
ヴントの学説
単に自分の心を見つめ、意識を観察するのではなく、意識を構成している要素を取り出し分析する「内観法」がヴントの特徴。この分析法から、彼の学説は構成主義といわれています。
例えば、みかんについて考えるとき
「みかん」=心的要素の結合体
「みかん」の心的要素=黄色・丸い・酸っぱい・甘い・芳香・冷たい・すべすべなど
以上のような心的要素を5感で人間は感じて、観念が生じ「みかん」と認識するという考え方です。この認識が成立する結合の法則を解明することで、人間の心の動きを探ることができるというのがヴントの考え。彼の門下からは、多くの優れた心理学者が誕生しています。
現代心理学の基礎となる科学時代
20世紀に入ると、現代の科学的な心理学の基礎となる
- 行動主義心理学
- ゲシュタルト心理学
- 精神分析学
以上が提唱されます。
行動主義心理学
ワトソンによって提唱された「行動主義心理学」
彼は心理学を「行動の科学」であると定義し「科学としての心理学を追求するには、主観的な内観だけではダメで行動分析が必要である」とヴントの心理学を否定します。ワトソンに影響を与えたのは「パブロフの犬」で有名なロシアの生物学者パブロフの条件反射説。
ワトソンは条件反射を利用すれば「どんな行動でも身につけることができる」と公言しましたが、ワトソンの行動主義心理学は極端に限定された条件でしか認められず、後に批判され個人的なスキャンダルもあいまって学会を去ります。
新行動主義心理学
ワトソンの後登場したトールマン、ハル、スキナーらは、行動の主体(人や動物)の関わりも含めた視点から研究し、新行動主義心理学と呼ばれています。
スキナーの「スキナーボックス」は有名でオペラント条件づけを発表しています。
ゲシュタルト心理学
1900年代のはじめ、ドイツのケーラー、コフカ、ヴェルトハイマーらによって提唱された心理学
ゲシュタルトとは「形態」や「全体」などを意味するドイツ語です。
ゲシュタルト心理学は、ヴントの構成主義を批判し、心の動きは、いくつもの事柄による相乗効果の影響を受けているという全体性を重視しました。
全体は単なる要素の集合体ではなく、それ自体がなんらかの法則性を持った構造となっており、一つ一つの部分は全体によって規定されているという考え方です。
個人的には、ヴントの構成主義の発展型に感じます。
精神分析学
フロイトによって精神分析学が唱えられたのも同じ頃でした。
彼は「無意識こそ心理学が扱うテーマだ」と考え、夢などによって表現される無意識を体系的に理論化しました。
また彼は、人の心は「エス・自我・超自我」によって構成されていると考え
- 本能的衝動理論(リビドー理論)
- 性の発達理論
- 自我防衛機制などを提唱しています。
こうしたフロイトの理論は、ユングやアドラーの理論に多大なる影響を及ぼしていきました。
新フロイト派
アメリカではフロイトの精神分析理論に影響を受けたホーナイ・フロム・サリヴァンらが登場
1960年代以降
心理学はもっと「真の人間らしさの追及に貢献すべき」という考えが、アメリカ合衆国を中心に「人間性心理学」が広がりました。
人間性心理学者として
- マズロー(自己実現理論)
- ロジャーズ(クライエント中心療法)
- パールズ(ゲシュタルト心理療法)などが登場します
日本の心理学の歴史
日本における心理学の研究は、明治以降に行われた欧米の心理学の紹介からはじまります。1889年、わが国で最初の心理学教授として元良勇次郎が東京帝国大学哲学科で心理・倫理・論理の講座を開きました。その後、松本亦太郎が2代目の心理学教授となり、東京大学と京都大学に日本初の心理学実験室を設立しました。
第2次世界大戦後はアメリカ文化の影響を受けて、さまざまな分野における心理学研究が日本でも急速に広がっていきます。
個人的には、日本古来の考え方として「神話や自然と共存する考え方」などが無意識の根本にあり、ユングの心理学が日本人に適していると思います。