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ココロのチカラ

集団心理の怖さやメリット 集団における人の感情の変化について

現代は、情報過多の時代です。街を歩いたり、電車に乗れば多くの標識や広告が目に飛び込んできます。

目に見えるものだけでなく、音やにおいなどの情報も含めれば、わたし達はあらゆる情報に取り囲まれて生きているともいえます。さらに、SNSの普及・ITの発達により情報が氾濫しています。

これらの情報をすべて処理しようとすれば、わたし達は1日のエネルギーの大半をそれらに費やさなければならないでしょう。Twitterを見ていて気づいたら30分経っていたなんてことは、わたし自身よくあります。でも、そのような事をしていたら、仕事や家庭、趣味などの時間が取れなくなってしまうのは明らかです。

このように情報が多すぎて処理しきれないような状況を、心理学では過剰負荷環境といいます。

今回の記事は、このような過剰負荷環境の社会と、そのような社会での「人と集団心理」について考えてみたいと思います。

都会の人間が冷たい理由

asmuSe / Pixabay

過剰負荷環境に対応するには、どうしたらいいのでしょうか?

家から一歩も出ない・ITを使わなければ、完全に情報をシャットアウトすることはできます。しかし、それでは健全な社会生活を送ることはできません。

そこで私たちは、現実の生活から退避することによって、その過剰負荷環境に順応しようとしているのだと思われます。

アメリカの心理学者ミルグラムは、過剰負荷環境に順応しようとする人々には次のような特徴があると述べています。

  • 情報は短時間で処理(他人に尋ねられても手短に教えるなど)
  • 重要度の低い情報は無視(エレベーター内で大勢が無言など)
  • 責任を他人におしつける(道端に人が倒れていても自分が助ける責任はないなど)
  • 個人的接触を避ける(電話番号を教えない・飲み会に参加しないなど)

よく、都会人は冷たいといわれますが、隣近所のつきあいが形式的で希薄になっているのは、できるだけ他人との関わりを持たないことによって、過剰負荷環境に適応し、身を守ろうとしていると考えられます。

社会での他人との関わりについて

大都市に住む人には大勢のファミリア・ストレンジャーがいると考えたのは、社会心理学者のミルグラムです。

ファミリア・ストレンジャーとは、顔はよく知っているが、挨拶をしたことも・話をしたこともない・見慣れた他人のことです。

ファミリア・ストレンジャ-実験
  1. 通勤電車のホームで待っている乗客の写真を撮る
  2. 次の週に同じ時刻の電車に乗る
  3. 乗客に写真を見せる

結果、1人あたり平均して4人の乗客、すなわちファミリア・ストレンジャーを認識していることがわかりました。しかも、身近な空間にいるファミリア・ストレンジャーに興味や関心を持っていたのです。

ファミリア・ストレンジャーは、単なる見知らぬ他人ではなく、お互いに興味を持ち、知り合う機会を待っている「待ち」の人間関係ともいえます。

挨拶を交わす仲になれば親しみを持てる

ファミリア・ストレンジャーは何かきっかけがありさえすれば、知り合いになったり、お互いの心理的距離を一気に縮めることができます。

近隣騒音の調査では、騒音の迷惑度を100%とすると、顔をあわせて挨拶する間柄になると35%に激減したようです。向こう三軒両隣の人とは、ファミリア・ストレンジャーでいるより挨拶を交わすような知り合いになれば、より良好な近隣関係を築けるのではないでしょうか。

例えば、近隣の家族構成で最近子供が産まれ夜泣きが多い、歌が好きでカラオケをしているなど、近隣の人の情報を少し知っていれば頭ごなしに「うるさい!」と思わず、許せるようになります。

現代の騒音トラブルの原因の本質には、近隣の人々との希薄な人間関係があるといえます。

集団の中の匿名性は人を大胆にさせる

アメリカの心理学者ジンバルドーは、匿名性が人を大胆にさせることを実証しました。

覆面を被った被験者と、素顔のままの被験者が不快に感じた女性に電気ショックを与える実験をしたところ、覆面を被った被験者のほうが長い時間、電気ショックを続けたのです。

また、1台の車を「匿名性が低い土地・高い土地」に放置する実験

  • 匿名性が低い土地では、1週間以上そのまま放置
  • 匿名性が高い土地では、3日以内に使えそうな部品はすべて盗まれた

以上のような結果もあります。

最近の社会問題になっている、SNSでの炎上も匿名性の影響は大きいです。しかし、SNSは見た目が匿名であっても、誹謗中傷などにより相手から訴えられた場合、身元が追求されます。誹謗中傷はやめましょう。

 集団心理と人間関係

アメリカの心理学者ジャニスは、集団にはその行動を左右する集団思考が働くとしています。

集団が個人に対する影響

不敗の幻想…集団の大きさや結束の固さを「強さ」と錯覚して楽観的になる

満場一致の幻想…集団の結束を損なうことを恐れて反対意見がいえない(現実的で有効な問題解決ができなくなる)

欲求不満説…日頃の欲求不満を群集行動の中で解消する(ふつうの人達であることが多いが群集の中で理性が吹き飛ぶ)

普遍感…多くの人と共通の態度・行動をとることで安心し、正当性を信じてしまう(「みんなでやれば怖くない」という心理)

数の圧力…多数の意見に同調することで安定性を得ようとする

さらに、群集の中で憎悪や敵意、不信感、欲求不満が高じると、その状況をともにする人達の間に共通の基準枠が生まれ、人々の価値判断や状況の認識はそうした枠組みに規定されるようになります。一般的に「この枠組み」は、個人の場合よりも極端な方向に偏りやすいといわれています。

集団の多数決が正しいとは限らない

多数決で賛成可決すれば、いつも最適な結果が生み出されるのでしょうか。答えはそうとも限りません。集団で思考することは、集団であるがためのデメリットもあるのです。

まず、高い士気と団結力を持った優秀な人々の集団には「楽観論」が生まれやすいといえます。

また、凝集性の高い集団のメンバーは、満場一致を優先して反対意見を述べない傾向があります。

他にも、倫理観・道徳観が軽視されることや、敵は悪者だといったステレオタイプ的な判断をしがちになります。

以上のようなデメリットに対処するため、リーダーは次のような対策を念頭に置くといいでしょう。

  1. 反対意見や疑問点を指摘する意見を奨励する
  2. 偏った立場を表明しないよう努める
  3. 凝集性の低い集団で決議する
  4. 重大な決定は個人が行うなど

集団心理とビジネスで見られる「マイノリティ・インフルエンス」

少数者が繰り返し一貫した態度や判断を示し続けると、多数者は信頼感が揺らぎ判断に変化が生じます。これをマイノリティ・インフルエンスといいます。

これには、上からの革新である「ホランダーの方略」と、下からの方略である「モスコビッチの方略」の2種類があります。

ホランダーの方略

過去に集団に大きく貢献したリーダー(会長など)が、その実績から得た影響力で集団の理解と承認を得ていくことです。

モスコビッチの方略

実権のない者が自分の意見を頑固に繰り返し主張し続けることで、多数派の意見を切り崩していくことです。

多数者側が「少数者が意見の妥当性を主張して、一貫した立場を取り続けている」と確信したとき、マイノリティ・インフルエンスは最も効果を発揮します。

(大ヒットの新商品の開発秘話などで、マイノリティ・インフルエンスを彷彿とさせる裏話をよく耳にします)

集団心理と同調圧力・同調性について

集団には、集団を維持するための「斉一性の圧力」というものが働いていて、ほかの成員たちから大きく逸脱しないように統制されているのです。こうした現象を同調といいます。

例えば、通勤時のサラリーマンの服装や雰囲気から、公務員・営業職などなんとなくわかります。これは、人は所属するグループや職場の雰囲気に自分の服装を合わせることで、集団から逸脱しないようにしているからです。

 

「集団心理に流されないか?」同調性の実験

同調性を調べた社会心理学者のアッシュの実験があります。

アッシュが行った同調性の実験

<問題 Aの長さと同じものを1~3で選びなさい>

  • 1人の時の正解率は99%です
  • 7人グループにし、6人が嘘の答えをいうと残りの1人は、6人の判断にならうべきか、自分の判断に固執すべきかでジレンマに陥ります

結果 このような状況に置かれた123人のうち29人(24%)は自分の判断を守り通しましたが、残りの76%の人は嘘をついた人と同じ答えを出しました。

同じ実験でも「条件が変われば」同調性も変わります。

  • お互いが顔を合わせない状況→同調率が低下
  • 6人のうち1人だけが嘘をつく→同調行動は少ない
  • お互いに顔見知り→同調率が強くなる(多数派の意見に従わないことは、かなりの勇気が必要→グループからのけ者されるのを恐れるから)
  • 自分の意見を支持する人が1人でもいる→自分の意見を守れる
  • グループが知らない人ばかり→自主性を失わない・多数派の意見に対抗

集団の中での援助行動について

集団が大きくなればなるほど「誰かが助けるだろう」という心理が働き、人を助けなくなっていきます。

キティ・ジェノバーズ事件

ある日の午前3時、仕事帰りの女性が変質者に襲われ殺されました。その間30分余りもありましたが、悲鳴を聞いて窓から顔を出した現場近くのアパートの住民38人は、誰1人として助けることも、警察に通報することもなく、現場をただ傍観するばかりだったようです。

これは「キティ・ジェノバーズ事件」と呼ばれ、都会に住む人々の冷たさを考えさせる事件となりました。

 バイスタンダー・エフェクト

キティ・ジェノバーズ事件のアパートの住民たちのように、冷淡な傍観者になってしまうことをバイスタンダー・エフェクトといいます。

この件に関して心理学者のラタネとダーリーは、こんな実験を行いました。

バイスタンダー・エフェクトの実験

  1. 被験者は1人で個室に入れられる
  2. ヘッドホンとマイクを使って「互いに顔を見ずに行う討論会だ」と説明する
  3. 討論中、討論参加者のサクラ役が悲鳴をあげ助けを求める

被験者は「顔も見たこともない討論相手を、悲鳴を聞いて助けに行くか?」の実験です。

実験の結果は、討論の参加人数で変わりました。

討論参加者が被験者とサクラの2人だけであった場合には、100%援助行動が起こりました。しかし参加人数が多くなると、自分がやらなくても誰かがやるだろうと思う「責任の分散」が起こり、援助行動に走る率は下がりました。

先ほどの実験では、被験者とサクラは赤の他人同士でした。しかし、これが顔見知りの場合ならどうなるでしょうか。

被験者が個室に入る前にサクラと面識をとるようにした実験では、多人数の実験群でも100%援助行動が見られました。さらに、顔見知りでない場合と比べ、援助行動に出るまでの時間も短くなっていました。

被験者が顔見知りの場合は、特別な責任を感じることに加えて、苦しみが具体的に想像しやすくなるのでしょう。

援助行動のように自分の利益を期待せずに誰かの役にたつような、社会的に望ましい行動をすることを「向社会的行動」といいます。しかし、先ほどの実験の場合は純粋な援助行動というよりは、顔見知りの相手や友人に援助行動しなかったことで後からバツの悪い想いをするのが嫌だという心理が働いた結果ではないかとも考えられます。このような心理を「愛他的自己像」といいます。

 集団心理の怖さ・パニックの心理について

現在はアナウンスシステムが完備され、トラブルが起こったら、SNS・スマホの普及によりテレビやラジオよりも素早く、迅速な対処のしかたを指示してくれます。しかし、情報を伝達する電話・電気が寸断されるほどの大規模災害の場合には、情報を受け取ることが難しくなり、パニックが起こりやすくなる恐れがあります。

アメリカの社会心理学者キャントリルがいうには「感受性が強い人・学歴が低い人ほどパニックに陥りやすい」と報告しています。

 

人がパニックに陥る理由

人間がパニックに陥る心理としては、第一に「暗示・模倣説」があげられます。これは、わたし達は他人が怖がっているのを見て、自分も怖さを感じることがあるように、群集の中ではより強く暗示の心理が働いて反応するようになるからです。(周りの人が大声でわめき・あわてふためくと、その刺激がさらに逃走反応を増長させます)

第二に考えられるのは「感染説」あたかも病原菌が伝染するように、興奮などの感情が周囲の人々に波及していきます。(Aの反応がBを刺激し、Bの反応がAに跳ね返り刺激が増幅され個人の判断さえも奪います)

流言とデマの違い

「流言」には悪意はなく、社会的な出来事に対して、情報が不足している状況で流れる噂です。虚偽であるとも限らず、ときには公式発表よりも正しい場合もあります。

「デマ」はデマゴギー(dema gogy)の略であり、扇動政治の意味を持っています。故意のねつ造や、悪意の中傷と知りつつ流す噂です。

流言もデマも、社会不安や精神的な不安要因が背景にあるため、重大な社会問題を引き起こす可能性を持っています。

暴動の引き金を引く「アジテーター」

パニックは暴動に発展することもあります。1975年、国鉄の順法ストで交通が麻痺したことが原因で、首都圏の方々の駅で暴動が起こりました。

「なんとかしてその日のうちに帰りたい」という気持ちが共通の目的として凝縮されたとき、長時間足止めされた人々は群集となり駅員と「電車を出すのか、出さないのか」と押し問答を繰り広げました。

それがかなわないとなると、今度は手当たり次第に駅の備品を打ち壊す破壊行動や売店から商品を奪い取る略奪行動に走りました。1人であれば、同じ目にあってもこれほど極端な情緒的行動には走らなかったでしょう。

羊や牛の群れが大きな円を描いて回りながら、周囲の個体を取り込んでいく過程を「ミリング」といいます。人の群集でもこのミリングのように、単なる傍観者であった人々を巻き込み、相互に興奮を高めながら影響の環を広げていくことがあります。

共感による情緒の伝達が感染するかのごとく拡大し、その反応は増幅されていきます。そうなると社会的抑制力が低下し自我が弱まり、責任感が喪失して攻撃性が増してきます。そのような群集は反社会的行動を起こしやすくなり、ついに暴動の引き金が引かれます。

この引き金を引く人を「アジテーター」といいますが、アジテーターになる人には、もともと攻撃的であったり、社会に不満を持っている人が多いといわれています。

暴動を防ぐには、協力して行動する冷静さが必要といえるでしょう。

群集の種類

群集は「能動的な群集(mobile)」と「受動的な群集(audience)」に分類されます。

能動的な群集を、mobileという単語を省略してモッブ(mob)といいますが、モッブはさらに3つに分けられます。

  1. 攻撃的モッブ…欲求を阻害しているものを暴力行為によって除外する(リンチ・テロ・暴動など)
  2. 獲得的モッブ…獲得行動を達成しようとするもの(スターにサインを求めるなど)獲得行動を阻害されると攻撃的モッブと化すこともある
  3. 表出的モッブ…心に感じた興奮を表出したいという欲求を持っているだけ(スポーツ観戦など)これも阻害されると攻撃的モッブに変わることがある

 集団のかたちについて

人が集まれば、仲が良い人や悪い人が生まれます。誰と誰が仲が良い・悪いということを体系的に図式化したり、数量的に表現することによって、集団の構造や集団内の力学を明らかにすることができます。こうしたソシオメトリーの考え方はモレノが提唱したものです。

例えば、学生時代の班分けで「好きな人と班になりなさい」といった経験があると思います。これを「ソシオメトリックテスト」といいます。

ソシオメトリックテストの結果を図式化したものが「ソシオグラム」です。班分けから各派閥や下位集団から構成されていることや、孤立者の存在が視覚的にわかります。

集団心理を研究したモレノ

1892年にルーマニアに生まれたモレノは1917年にウィーン大学医学部で学位を取得。精神分析やマルクスの影響を受けながらも「今、ここで」という言葉にあらわされる現時点での相互作用の自発性や創造性を重視し、独自の人間理解のための方法を模索し続けました。

彼の理論は、自発性の理論や役割理論が代表的なものですが、今日では心理学による集団心理療法の技法や社会集団の分析方法の創始者として知られています。

 

集団心理のメリット「作業に最適な集団のかたち」とは?

集団を構成する成員間のコミュニケーション・ネットワークを研究したのがリービットです。彼は集団化された5人組の作業効率や作業への満足度を調べました。その結果、小集団にはそのパターンの作り方によって、ある一定の特徴が見られることがわかりました。

車輪型

簡単な作業内容で、最も効率が高かったグループ。中心にいる人がリーダー役を果たすことによって、情報や指示が素早く伝わり正確に問題が解決された。

*成員5人同士の結びつきはない

円型

すべての成員が対等の立場にあるため作業効率は悪いが、車輪型よりも作業の満足度は高くなる。

*円であり、対面の成員とは繋がりがない

オールチャンネル型

情報伝達に優れ、単純作業の課題解決に最適なパターンだが、ひと昔前まではリーダーから他の成員に向けて情報が同時に届けられる構造は事実上不可能であったため、議論上のパターンにすぎないと思われていた。現在は、インターネットの普及によって可能となっている。

*すべての成員が繋がっている関係

鎖型

複雑な課題に有利だが、派閥やなわばり意識が起きやすい。

*5人が並列の関係

Y型

鎖型と同様

*リーダー各が2人おり「Yの字」のようにその下に成員が3人いる

集団形成の条件とは?

そもそも、集団とはどのような条件のもとで形成されるのでしょう。

1 性格・態度が似ている人同士が出会うと、相互理解が生まれ集団を形成しやすくなります。仮に顔や性格が似ていなくても、夫婦や家族などのように長年一緒にいることでお互いを補う関係ができれば、集団は長く維持されます。

2 単純に物理的に近くにいるというだけでも、集団を形成しやすくなります。(近所のこども、教室での席が近いなど)

3 集団の目標や課題に魅力を感じることも、その集団に属する強い動機になります。(自分1人で解決できないが集団に所属することで目標を達成しようとする)

 

集団心理について様々な事例をご紹介しました。

社会生活の集団のなかで大切なのは「物事や情報を冷静に判断し行動すること」だといえます。SNSの普及により、間違った情報を拡散しないよう心掛けたいところです。

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